3年前のことです。
以前勤めていた会社の社長から、とつぜん電話があり、
設計担当者が退社することになり、新しい設計者を探しているのだが、
なかなかみつからない。そこで、OBのあなたにお願いしたい、
よかったら助けてもらえないだろうか。
そんな内容でした。
母が亡くなって2年。
ようやく気持ちの整理もついたころでした。
とはいえ、再就職しようとは夢にも思っていなかったので、
ピンときませんし、その気にもなれません。
せっかくだけど、お断りしようというのが正直な気持ちでした。
ところが、その気持ちとは裏腹に、
ふと、自分にもまだ人のお役に立てるのかもしれないという思いがわいてきて、なんとその申し出を引き受けてしまったのです。
すぐに後悔と不安に襲われました。
4年ぶりの職場復帰です。
しかも片道36キロの遠距離通勤。
でも、くるまの運転は好きですし、
片道50分くらいの運転ならたいしたことではありません。
いちばん心配したのは、仕事の内容そのものでした。
ぼくの専門は住宅の設計です。
途中でちょっとだけ脱線したこともありましたが、
住宅設計一筋といってもいいでしょう。
それしかできないし、違うことをしようとも思いません。
しかし、4年間のハンデは大きすぎるのではないか。
くよくよ考えても何にもならない。
やれるところまでやればいい。
ダメだったら辞めたらいい。
そう腹をくくり、覚悟を決めるまですこし時間はかかりましたが、
開き直って再出発することにしました。
いわゆる見切り発車というやつです。
住宅の設計は、ほとんどパソコンでこなす仕事です。
4年のブランクの間に、設計ソフトウエアは格段に進化し、住宅の性能も以前とは比べものにならないほど、高いものを求められるようになっています。
とりあえず、設計ソフトを使いこなすことから始めました。
長年使い慣れたソフト(いわゆるCAD)の操作そのものは、
以前とたいして変わりませんでしたが、
微妙に違うところもいっぱいあって、思わぬところで躓き、
手が止まることもしばしば。
CADは、その性質上、分からないところを飛ばすわけにはいきません。
作業中断。
分厚いマニュアルをひっくりかえして、ようやく問題解決。
初めのころは、蟻のような歩みでした。
こんなことで役に立つのか。
ふがいない自分と葛藤し、自宅まで問題を持ち帰って苦闘することもありました。
大型犬を室内飼いしているので、
仕事だけで時間的にいっぱいになるような生活はしたくありません。
半日だけの勤務にしてもらったはずなのに、それやこれやで、
結局、1日勤務しているのと同じくらい、自分の時間が減ってしまいました。
その点だけは、自分の自覚が甘かったと認めざるを得ません。
しかし、後悔はしていません。
自分でも驚くのですが、じつは、去年が喜寿でした。
この歳で、いまだにCADと格闘しているやつなんて、いるだろうか。
まだまだやれる。
年齢なんて関係ない。
とはいっても、
みっともないことはしたくないので、
時期が来れば、スパッと身を引くつもり。
こんどこそ、隠居かな?
少しでも、人様にお役に立てるのは、生きがいそのもの。
これほど、張り合いのあることはありません。
向こうから転がりこんできた幸運に感謝。
むざむざと手放すわけにはいかない。
しみじみと実感する今日このごろです。
チャンスはどこにでも転がっている!